
【24時間TV】「安い感動(笑い)」が地球を救う?岡田斗司夫氏の主張をめぐって~第2回~※2024.9.18追記あり

目次
■シリーズ概要
この記事は、全4回にわたるシリーズの第2回目である。
本シリーズでは、毎年夏に放送される「24時間テレビ」と、NHKの「バリバラ」の対立を中心に、感動ポルノと呼ばれる問題に焦点をあてる。
さらに、岡田斗司夫氏の主張を通して、現代のメディアがどのように障害者をえがき、視聴者にどのような影響を与えているのかを考える。
そして最後に、24時間テレビに投げかけられた問題の論点は何なのかを明らかにし、今後の障害者に関するメディアのあり方を提示したい。
■前回のふり返り
前回は、「24時間テレビ 愛は地球を救うかも?」が”感動”を通じて寄付を呼びかけるチャリティ番組であり、特に番組のウリとなっている「チャリティマラソン」を通じて感動を呼び起こし、視聴者の関心を集めようとしていることを紹介した。
一方で、NHKのバラエティ番組「バリバラ」は、2016年に「笑いは地球を救う」という特番を放送している。この特番では、「24時間テレビ」が提供する感動ポルノ的な描写を批判し、そのような方法ではないメディアのあり方を模索したことを紹介した。
今回は、岡田斗司夫氏が「24時間テレビ」と「バリバラ」について批判したときに提示された「感動(笑い)」の種類について解説していこう。
■注記
なお、岡田氏は「感動」と「笑い」を区別しているのかいないのか、判然としない。おそらく主張全体の流れから、「感動」と「笑い」は同等のものとして扱っていると思われるので、「感動(笑い)」と表記している。ただし、「優越性の笑い」は、岡田氏が藤井 健太郎著『悪意とこだわりの演出術』 より引用したものなので原文のまま記述する。
1. 岡田斗司夫氏の批判~元動画紹介~
「24時間テレビ」に対する「バリバラ」の対抗手段について、岡田斗司夫氏は自身のYouTubeチャンネルで批判をしている。該当の動画を下にはっておく。
2. 岡田氏の主張~「感動(笑い)」には種類がある~
この動画で岡田斗司夫氏は、「感動」には「安い/ベタな感動(笑い)」と「高い/高尚な感動(笑い)」の2つがあるという。
「安い/ベタな感動(笑い)」とは、その先が予測できる「わかり切った」、「お決まり」のストーリーによって、感動や笑いを誘うものである。
一方岡田氏は、「高い/高尚な感動(笑い)」については詳しく説明していない。そのため、推測にとどまらざるを得ない。しかし、彼の理論にもとづくならば、「高い/高尚な感動」は「安い/ベタな感動(笑い)」の正反対のものと考えられるだろう。
※「感動(笑い)」を「安い」「高い」で分類することが妥当かどうかは議論の余地があるし、「高い/高尚な感動(笑い)」が何を指すのか、「中間の笑い(?)」はあるのかなどについて、もう少しはっきりとした説明が欲しかったが、まあ議論を先に進めよう。
3. 「安い/ベタな感動(笑い)」
岡田氏によれば、「24時間テレビ」が提供する感動は、「安い感動(笑い)」や「ベタな感動(笑い)」である。わかりやすい例としては、時代劇ドラマ「水戸黄門」があげられる。
3-1.例:水戸黄門
このドラマは、毎回、ほとんどストーリ展開が同じである。
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まず、悪巧みをする悪代官と越後屋が出てくる。
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それを水戸の一行の仲間である、忍者の「弥七」や「お銀」がつきとめる。
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証拠が集まったところで、水戸の一行はいざ悪代官とその手下がいる屋敷へ乗り込む
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まずは、助さん格さんが見事なチャンバラを繰り広げる。
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だいたい片づいたところで、ババーンと黄門様が登場!
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そして、お決まりのセリフ「この紋所が目に入らぬか。こちらにおわすお方をどなたと心得る。恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ。え~い頭が高い。控えおろう!」。
⇓
かくして、悪代官ともども悪いヤツらは成敗される
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…というようなお馴染みのストーリー仕立てで「スッキリ」「やったぜ」「さすが水戸黄門!」といったような感動・快感をもたらす。
このような「分かりやすい感動のあり方」を岡田氏は「安い/ベタな感動(笑い)」と呼んでいるのだ。
4. 「優越性の笑い」
つぎに、岡田氏は「優越性の笑い」について紹介している。
「優越性の笑い」というのは、以前は「安い/ベタな感動(笑い)」で感動できたものが、いまでは「見え透いた感動ストーリー」として感動しないどころか、どこか「寒く」さえ感じる。それを越えて、むしろ嘲笑してしまうような側面さえある。
4-1.例:金八先生
たとえば、以前は感動した「金八先生」の長く熱い説教も、今では「白け」の対象となっている節がある。これを逆手に取り、現代のお笑い番組の中で、「笑いどころ」として「わざとらしく」それを演じてみせる。
そして「古っる!(笑)」「ああ、昔あったあった(笑)」「ダメダメ今は通用しないって(笑)」というような感情を観客に引き起し、笑いをとる。
このように、以前と今の感覚のズレを利用したものが「優越性の笑い」というものである。
5.「高い/高尚な感動(笑い)」
冒頭でも触れたが、「高い/高尚な笑い」については何がそれなのか、明言されていない。ただ、文脈からすると、おそらく「高い/高尚な感動(笑い)」は「優越性の笑い」のことと思われる。
つまり、「24時間テレビ」は「安い/ベタな感動(笑い)」を提供したのに対して、「バリバラ」は「高い/高尚な笑い」=「優越性の笑い」を提供し、24時間テレビの感動ポルノ的なメディアのあり方を批判した、と岡田氏は理解しているのだと推測する。
すなわち、
┎┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┒
「安い/ベタな感動(笑い)」=感動ポルノ
VS
「高い/高尚な笑い」=「優越性の笑い」
┖┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┚
という構図である。
■項目5についての訂正・追記(2024.9.18)
動画を見直していたところ、岡田氏はバリバラ批判の後に「ハイドラマ」について説明をしていた。その内容を要約すると、ベタな演出を使わずに、観ている者の心をどんな形でもいい(感動でも、悲しいでも、複雑な思いでも、なんでもいい)ので、動かすように仕向けたドラマ(または映画)のことである。これが岡田氏の言う「高い/高尚な感動(笑い)」である。
したがって、先の構図について
┎┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┒
「安い/ベタな感動(笑い)」=感動ポルノ
VS
「優越性の笑い」
┖┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┚
と訂正しておく。
■最後に
今回は、岡田氏が提供した「感動(笑い)」の種類について解説した。次回は、この「感動(笑い)」の種類を用いた岡田氏による「バリバラ」批判を見ていきたい。
⬛︎YouTubeライブでも触れました。アーカイブはこちらです⬇。良かったら違うメディアからも見て、ぜひ感想をお聞かせください!